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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)62号 判決 1982年8月31日

控訴人(原告) 山形作市 外二名

共同訴訟参加人 伝川浩

被控訴人(被告) 西川町長 外二名

主文

一  控訴人山形作市、同小林勝一及び同込山孝一郎の本件各控訴を棄却する。

二  右控訴人らの当審における新たな各請求及び当審における共同訴訟参加人伝川浩の請求を却下する。

三  控訴費用(但し、共同訴訟参加によつて生じた費用を除く。)は控訴人山形作市、同小林勝一及び込山孝一郎の負担とし、共同訴訟参加によつて生じた費用は共同訴訟参加人の伝川浩の負担とする。

事実

一  控訴人山形作市、同小林勝一及び込山孝一郎(以下「控訴人ら」という。)訴訟代理人は、「原判決を取り消す。本件を新潟地方裁判所へ差し戻す。」との判決を求め、控訴人らの共同訴訟参加人伝川浩(以下「共同訴訟参加人」という。)訴訟代理人は、主位的請求として、「一 被控訴人渡邊高司及び同有限会社西川不動産は、西川町に対し、各自金九三二二万七三八四円及びこれに対する昭和五四年二月一四日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。二 訴訟費用は被控訴人渡邊高司及び同有限会社西川不動産の負担とする。」との判決を求め、予備的請求として、「一 被控訴人有限会社西川不動産は、西川町に対し、別紙物件目録記載の土地につき、新潟地方法務局巻出張所昭和五四年二月一三日受付第一三五八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。二 訴訟費用は被控訴人有限会社西川不動産の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人ら訴訟代理人は主文一、二項同旨の判決を求めた。

二  控訴人ら及び共同訴訟参加人並びに被控訴人らの主張、証拠は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二枚目裏末行「原告ら」を「西川町」と改める。

2  同三枚目表六行目「原告らの」の次に「被控訴人西川町長に対する本位的及び予備的請求、被控訴人渡邊高司に対する」を加える。

3  同判決三枚目裏六行目「とおり、」の次に「昭和五四年一一月二〇日」を加え、七行目「なし、」を「西川町監査委員にしたところ、昭和五五年一月一七日同監査委員から」と改め、九行目「同年」を「昭和五四年」と改める。

4  同四枚目表六行目「右規定」から九行目「廉と」までを次のとおり改める。

「追加事由は、本件売却処分が適正な対価なくしてした譲渡即ち時価に比して低廉な価格による譲渡である場合、右規定により同処分については、西川町議会の議決を要するとするものであり、結局本件売却処分価格が低廉であるかどうかにかかつていることになるから、右追加事由は、第一回監査請求事由に包含され、」

5  同四枚目裏二行目「ものに」から三行目「一六日」までを「通知があつた日である昭和五四年六月一六日であり、本件訴えはその日」と改め、七行目の「中、」から八行目「その余」までを「の事実」と改め、末行「1」から同五枚目表四行目「している。」までを削る。

6  同五枚目表五行目「2」を「1」に改め、同裏二行目「3」を「2」に改める。

7  同八枚目表一〇行目「確認を求め、」の次に「西川町に代位してその所有権に基づき」を加える。

8  控訴人らの当審における新たな請求及び当審における共同訴訟参加人の請求

(一)  被控訴人渡辺高司は、昭和五四年二月一三日西川町長として、被控訴会社に対し随意契約により同町所有の本件土地を代金三六〇〇万円で売却し、新潟地方法務局巻出張所昭和五四年二月一三日受付第一三五八号をもつてその旨所有権移転登記手続をした。

(二)  右本件土地売却処分は、次のとおりの事由により違法である。

(1) 町有財産の売却は議会の議決を経た場合を除き適正対価なくしてこれを行うことができない(地方自治法九六条一項六号、二三七条二項)。

しかるに、被控訴人渡邊高司は、議会の議決を経ることなく、時価一億二九二二万七三八四円相当の本件土地を、適正対価とはいえない不当に低廉な三六〇〇万円で被控訴会社に売却した。よつて、右処分は、前記地方自治法の規定に違反する。

(2) 町有財産の売却は、地方自治法施行令一六七条の二第一項所定の事由がある場合を除き、随意契約によることはできない(地方自治法二三四条二項、同法施行令一六七条の二第一項)。しかるに、被控訴人渡邊高司は、本件土地売却処分につき随意契約によることができない場合であるのに、随意契約によつて売却処分した。よつて、右処分は前記地方自治法、同法施行令の規定に違反する。

(三)  右不法な本件土地売却処分は、被控訴人渡邊高司の故意又は重大な過失に基因するものであり、西川町はこれにより九三二二万七三八四円(適正価格一億二九二二万七三八四円から売却処分価格三六〇〇万円を控除したもの。)の損害を被つた。

(四)  被控訴会社は不動産の売買及び仲介を営業としている者であり、本件土地の当時の適正価格を知悉し、右売却処分価格では西川町が右損害を被ることを知つていたものであるから、悪意により不当利得をしたものというべく、右不当利得金九三二二万七三八四円及び不当利得した日の翌日から民法所定年五分の割合による損害金を支払う責任がある。

(五)  また、仮に本件土地売却処分が前記(二)の各事由により無効であるとすれば、西川町は所有権に基づき被控訴会社に対し本件不動産の所有権移転登記の抹消登記を請求することができる。

(六)  控訴人ら及び共同訴訟参加人は、西川町の住民であるところ、西川町が被控訴人渡邊高司に対し右損害賠償請求権を、被控訴会社に対し不当利得返還請求権ないし本件土地所有権移転登記の抹消登記請求権を行使しうるのに、これをしないでいるのは、違法に財産管理を怠る事実に該当するとして、地方自治法二四二条に基づき昭和五六年一〇月一九日西川町監査委員に対し監査請求をし、同町監査委員から昭和五六年一一月一八日参加人に対し、右請求却下の通知があつた。

(七)  よつて、控訴人ら及び共同訴訟参加人は、被控訴人渡邊高司及び被控訴会社に対し西川町に代位して請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

9  控訴人らの当審における新たな請求及び当審における共同訴訟参加人の請求に対する被控訴人渡邊高司及び被控訴会社の答弁

被控訴人渡邊高司が昭和五四年二月一三日、西川町長として、被控訴会社に対し、随意契約により、同町所有の別紙物件目録記載の土地を代金三六〇〇万円で売却し、新潟地方法務局巻出張所昭和五四年二月一三日受付第一三五八号をもつてその旨所有権移転登記手続をしたこと、控訴人ら及び共同訴訟参加人が昭和五六年一〇月一九日西川町監査委員に対しその主張のような監査請求をしたこと、同町監査委員が右監査請求について同年一一月一七日付で却下の通知をしたことは認めるが、右監査請求が適法であるとの主張は争う。

控訴人ら及び共同訴訟参加人主張の昭和五六年一〇月一九日付監査請求は、地方自治法二四二条二項の定める期間を徒過した後にした不適法なものである。すなわち、控訴人ら及び共同訴訟参加人が主張する監査請求は、西川町長の違法な財務会計上の行為(本件土地売却処分)に基づいて発生したとする実体法上の請求権の不行使を怠る事実に該当すると構成し、その行使を勧告するものにほかならず、かかる場合は本件土地売却処分の日である昭和五四年二月一三日を基準として同法二四二条二項の期間制限の適用の有無を判断すべきであり、右監査請求は同日より一年を経過した後にされているから、不適法であるというべきである。

よつて、右不適法な監査請求を前提とする控訴人らの当審における新たな請求及び当審における共同訴訟参加人の請求は、不適法として却下を免れない。

10  証拠<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人らの原審における本件各訴えを却下すべきものと判断するものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決一五枚目裏一行目「丙第一号証」の次に「の一ないし三」を加え、同行「各」を削り、二行目「丙第一号証の一」の次に「ないし三」を加える。

2  同一六枚目裏一一行目「ものであり、」の次に「結局両請求における」を加え、一二行目「違法事由」を「本件土地処分価格が著しく低廉であるとの監査請求事由」に改める。

3  同一七枚目表四行目「指摘した違法事由」から八行「いうべきであり、」までを次のとおり改める。

「追加して補足した事由である、右処分につき西川町議会の議決を経なかつたとの点は、監査委員が右処分価格につき著しく低廉であるとの監査請求事由を調査判断する過程において、必然的に地方自治法九六条一項六号、二三七条二項に定める議会の議決の要否にまで、その調査判断を及ぼすべきものであり、従つて右の点は右処分価格が著しく低廉であるとの監査請求事由に包含され、その一要素に過ぎないものと解すべきである。そうすると、控訴人らが第二回監査請求において議会の議決がなかつたとの点を補足したとしても、この点は新たな監査請求事由にはなりえないものといわねばならない。」

4  同一七枚目裏二行目「たとえ監査請求としては適法であるとしても、」を削る。

二  控訴人らの当審における新たな請求及び当審における共同訴訟参加人の請求について

被控訴人渡邊高司が昭和五四年二月一三日、西川町長として、被控訴会社に対し、随意契約により、同町所有の別紙物件目録記載の土地を代金三六〇〇万円で売却し、新潟地方法務局巻出張所昭和五四年二月一三日受付第一三五八号をもつてその旨所有権移転登記手続をしたこと、控訴人ら及び共同訴訟参加人が昭和五六年一〇月一九日西川町監査委員に対しその主張のような監査請求をしたこと、同町監査委員が右監査請求について同年一一月一七日付で却下の通知をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴人ら及び共同訴訟参加人主張の昭和五六年一〇月一九日付監査請求は、西川町長の財務会計上の行為(昭和五四年二月一三日にした本件土地売却処分)に基づいて発生したとする実体法上の請求権の不行使を怠る事実に該当するとして構成し、これを監査請求事由とするものであるが、右実体法上の請求権の発生は、その根源である処分の適否にまで遡るのであるから、結局その根源たる事実についての違法事由を監査請求事由としているものと解さざるをえず、右実体法上の請求権発生の根源たる事実は本件土地売却処分であることが明らかであるから、控訴人らが昭和五六年一〇月一九日にした監査請求の事由は、前記控訴人らがした第一、二回監査請求事由と同一であるというほかはなく、従つて、右昭和五六年一〇月一九日付監査請求(第三回監査請求)は、控訴人らに対する関係では、一事不再議の原則の適用並びに地方自治法二四二条二項所定の期間徒過により不適法であるというべきである。

そして、控訴人らの当審における新たな請求は、右不適法な監査請求を前提とするものであるから(控訴人らの当審における新たな請求が昭和五六年一一月二四日にされたことは記録上明らかであり、第一回監査請求の結果が控訴人らに通知された日である昭和五四年六月一六日を基準とすると、右新たな請求はこの日から三〇日以内にされていないから、同法二四二条の二第二項に違反する。)、不適法として却下を免れない。

また、当審における共同訴訟参加人の請求は昭和五六年一〇月一九日にした監査請求を前提とするものであるところ、右監査請求は、西川町長の財務会計上の行為(本件土地売却処分)に基づいて発生したとする実体法上の請求権の不行使を怠る事実に該当するとして構成しこれを監査請求事由とするものであるが、かかる場合は本件土地売却処分の日である昭和五四年二月一三日を基準として同法二四二条二項の期間制限の適用の有無を判断すべきである。そうすると、右監査請求は、昭和五四年二月一三日から一年を経過した後にされていることが明らかであつて、右期間徒過について正当理由を認めるべき資料はないから、同法二四二条二項所定の期間徒過により不適法というべきである。

よつて、右不適法な監査請求を前提とする当審における共同訴訟参加人の請求も、不適法として却下を免れない。

三  以上のとおりであるから、控訴人らの本件各訴えを却下した原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴人らの当審における新たな各請求及び当審における共同訴訟参加人の請求は不適法であるからいずれもこれを却下し、控訴費用(但し、共同訴訟参加によつて生じた費用を除く。)の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を、共同訴訟参加によつて生じた訴訟費用の負担につき同法九四条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川添萬夫 鎌田泰輝 相良甲子彦)

別紙省略

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